「AIを活用したいが、人がいない」。
これは多くの中小企業の経営者が口にする共通の悩みです。求人を出しても応募が来ない、紹介されても条件が合わない。結果として「AI人材は中小企業には無理なのではないか」と感じている方も多いでしょう。
しかし、この問題は単なる人手不足ではありません。AI人材を取り巻く採用市場の構造と、企業側の期待値の置き方に原因があります。本記事では、その現実を冷静に整理し、経営判断の材料を提供します。
AI人材不足は「一時的な流行」ではない
まず押さえておきたいのは、AI人材不足は一過性のブームではないという点です。AI人材とは、機械学習やデータ分析、生成AIなどを業務に適用できる人材を指します。これらのスキルは短期間で身につくものではなく、世界的に需要が供給を大きく上回っています。
特に日本では、AI・データ領域の専門教育を受けた人材の母数自体が少なく、限られた人材を大企業やグローバル企業が先に確保する構図が続いています。この構造は、今後もしばらく変わりません。
中小企業が不利になりやすい採用市場の現実
年収水準の競争に巻き込まれる
AI人材の年収相場は、経験や分野にもよりますが、一般的に高水準です。特に実務経験のある人材は、年収800万円〜1000万円以上を提示されることも珍しくありません。
中小企業がこの水準での採用を前提にすると、固定費としての人件費負担が経営に与える影響は非常に大きくなります。単純に「出せる・出せない」の問題ではなく、投資として妥当かどうかを慎重に見極める必要があります。
「何でもできるAI人材」を求めてしまう
採用がうまくいかない企業に共通するのが、要件の肥大化です。
「AIも分かって、システムも作れて、業務も理解してほしい」
しかし、このような人材は市場にほとんど存在しません。仮にいたとしても、より条件の良い企業を選ぶのが自然です。結果として、求人は出し続けているのに誰も採用できない状態に陥ります。
採用後に見えてくる別のリスク
仮に高い条件でAI人材を採用できたとしても、それで問題が解決するとは限りません。むしろ、別のリスクが顕在化するケースもあります。
業務がブラックボックス化する
AIは専門性が高いため、内容を理解できる人が社内に一人しかいない状況が生まれがちです。これにより、その人がいないと仕組みが分からない、改善できないという属人化が起こります。
退職リスクが経営リスクになる
AI人材は転職市場で常に声がかかる存在です。一人に依存した体制では、退職がそのまま事業リスクにつながります。これは中小企業にとって、見過ごせない問題です。
本当に必要なのは「採用」なのか
ここまで整理すると、ひとつの疑問が浮かびます。
中小企業にとって、AI人材を外から採用することが最適解なのかという点です。
AI活用の多くは、既存業務の効率化や判断支援から始まります。これらは必ずしも高度な研究開発レベルのスキルを必要としません。業務を理解している社員が、AIを使いこなせるようになる方が、現実的なケースも多いのです。
「AI人材は育てるもの」という視点
AI人材を「採用するもの」と考えると、採用市場の厳しさに直面します。一方で、「育てるもの」と捉えると選択肢は大きく広がります。
既存社員に対して、AIの基礎理解や業務への活用方法を段階的に学ばせることで、組織としてAIを使える状態を作ることができます。このアプローチは、コストを分散し、属人化を防ぎ、長期的な組織力につながります。
判断の軸を持つことが重要
AI人材が採用できないこと自体が問題なのではありません。問題なのは、「なぜ必要なのか」「どのレベルが必要なのか」を整理しないまま、採用だけに答えを求めてしまうことです。
まずは自社の業務と目的を整理し、採用・外注・育成のどれが適切かを判断する。そのための知識を持つことが、経営者に求められています。